地球外物質研究グループ|宇宙科学研究所

キュレーション

はやぶさ2|小惑星リュウグウ

Habusa2 and Ryugu

惑星物質試料受入れ設備(地球外試料キュレーションセンター)では、2020年12月、探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウから持ち帰った試料を受入れました。

「はやぶさ2」帰還試料の受入れ準備

地球外物質研究グループは、2015年からリュウグウ帰還受入れのための具体的な検討を開始しました。大きな準備として、「はやぶさ2」専用のクリーンルームとクリーンチャンバが必要でした。準備開始当初に、複数の大学や研究所の研究者らと、「はやぶさ2」の科学要求を議論し、2018年にその要求を満たす設備を完成させました。「はやぶさ」用クリーンチャンバは2台の連結構成(第1室と第2室)だったことに対して、「はやぶさ2」用クリーンチャンバは5台の連結構成(第3-1室、第3-2室、第3-3室、第4-1室、第4-2室)となっています。真空雰囲気の第3-1室でサンプルコンテナを開封し、第3-2室では試料の一部を真空雰囲気で回収保管できるなど、「はやぶさ2」プロジェクトの科学要求に対応した機能を持っています。また、クリーンチャンバ第4-1室と第4-2室は、高純度窒素雰囲気で試料を取り扱うためのチャンバです。「はやぶさ」用の第2室と目的は同じですが、これまでの経験に基づき設計変更をしています。特に第4-2室は上面が全面ガラス窓になっており、作業者が上からのぞき込むような形で、より確実に試料を取り扱えるものとなっています。クリーンルームやクリーンチャンバの完成後は、クリーンチャンバに計測機器や分析装置を搭載、試料取扱い器具(ハンドリングツール)開発、器具洗浄手法の検討、運用手順整備、リハーサルによる作業習熟など、多岐にわたって綿密な準備を進めました。

「はやぶさ2」用クリーンチャンバ

再突入カプセル受入れとサンプルキャッチャの回収

「はやぶさ2」によりオーストラリアに届けられた再突入カプセルは、サンプラチームにより清掃され、サンプルコンテナ内のガス採取が実施されました。その後、地球外試料キュレーションセンターに輸送され、クリーンルームにてサンプルコンテナを取り出しました。
サンプルコンテナとは、サンプルキャッチャ(採取試料容器)を格納した真空密閉コンテナです。コンテナの表面を徹底的に清掃、コンテナふたの開封装置にセットし、クリーンチャンバ第3-1室に導入しました。サンプルコンテナは真空容器であり、サンプルキャッチャ内の試料を地球上の大気に触れないように守る機能があります。ここまでの一連の作業の中で、コンテナのふたが少しでも開いてしまうと、地球の大気が入り込み、試料が汚染触れてしまう恐れがありましたが、慎重な作業により無事にクリーンルーム内に導入することができました。導入後、チャンバ内を高真空雰囲気にして、コンテナふたの開封をし、コンテナからサンプルキャッチャを取り出しました。

サンプルキャッチャからの試料回収

クリーンチャンバ第3-1室で回収したサンプルキャッチャを第3-2室に移動し、第3-2室の真空雰囲気の下で、サンプルキャッチャA室のふたを開け、室内に試料が存在していることを観察しました。なお、サンプルキャッチャには試料を格納する部屋がAからCまでの3部屋あり、A室が最も広い部屋です。その後、鉗子(マジックハンド)により試料を数粒拾いだしました。ここで拾い出した試料は真空雰囲気のまま、将来の研究のために保管します。その後、サンプルキャッチャ本体を第3-3室に移動しました。第3-3室とそれに続く第4-1室、第4-2室の窒素雰囲気のもと、グローブ操作によりサンプルキャッチャを分解し、キャッチャA室とそれ以外の部屋からも試料を回収しました。回収した試料量は5グラム程度あり、想定の100ミリグラムを大きく超えていました。また、「はやぶさ」では微粒子(50マイクロメートル程度)が主でしたが、今回は数ミリメートル程度の大きい粒子が得られています。準備段階で、イトカワ試料より大きいものを扱う想定で進めており、今回の試料操作に利用するツール(ハンドリングツール)は、リュウグウ用に新たに整備したものです。

初期記載

2020年12月現在、クリーンチャンバ第3-1室、第4-1室、第4-2室でのグローブ操作により、サンプルキャッチャから回収した試料を仕分ける作業を進めています。これらのチャンバは、天秤、光学顕微鏡、赤外顕微鏡+フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)、MicrOmega(マイクロオメガ)を備えており、試料を汚さず非破壊で計測・分析することができます。天秤では重さ、光学顕微鏡では見た目の姿形や色合いと大きさ、FTIRとMicrOmegaでは赤外線照射に対する反射スペクトルを分析することで目視できない含水や有機物的な特徴を記録できます。これらの計測・分析を初期記載と呼び、試料の特徴を把握するために実施しています。初期記載には、試料がリュウグウ由来である根拠が得られる期待や、研究機関や研究者への試料配分のための情報としても利用する役割があります。惑星物質試料受入れ設備では当面、初期記載作業を進めていきます。

今後の予定

初期分析とPhase2キュレーション

2021年中頃から、初期記載後の試料は「はやぶさ2」プロジェクトによる初期分析チーム(協力関係にある大学や研究機関から選抜された研究者)に提供する予定です。初期分析では様々な高次の分析が実施され、小惑星リュウグウの形成過程や、小惑星に含まれる水の起源、太陽系の歴史に関する知見などが得られる期待があります。また、地球外物質研究グループは、連携協定を結ぶ研究機関と協力体制を構築しており、Phase2キュレーションと呼ぶ枠組みにおいて、リュウグウ帰還試料全体の特徴を網羅するような高次分析(詳細記載)を実施する予定です。Phase2キュレーションでは、試料ハンドリング技術の向上にも取り組んでいます。

リュウグウ試料情報公開と国際公募研究

リュウグウ試料の初期記載情報は、データベースに登録しインターネットで公開する予定です。2022年中頃からは、国際公募研究を開始します。この枠組みより、一般の研究者もリュウグウ試料を利用した研究が可能になります。

リュウグウ試料キュレーションに関する技術やツール

「はやぶさ2」用クリーンチャンバ

「はやぶさ2」帰還試料を受入れるために準備された装置で、真空チャンバと窒素雰囲気のグローブボックスからなります。「はやぶさ」用クリーンチャンバとの主な違いは、真空下でサンプルキャッチャから試料を回収して保管できることと、設計変更により試料取扱い性能を向上させているところです。また、そのような要求を満たすために、「はやぶさ」用は2台のチャンバによる連結構成に対して、「はやぶさ2」用では5台のチャンバによる連結構成となっています。また、クリーンチャンバ内で初期記載を行うために、FTIRとMicrOmega用の拡張チャンバを接続しており、この点も「はやぶさ」用クリーンチャンバとは異なっています。

真空ピンセット、ループ針

イトカワ試料のほとんどは50マイクロメートル程度の微粒子だったため、静電制御マニピュレータによる静電気力により試料の操作(移動)ができました。リュウグウ試料の個体は数マイクロメートルから数ミリメートル、主には数100マイクロメートルと想定されました。そのサイズの試料を取り扱うのに適したツールとして、真空ピンセットやループ針を準備しました。真空ピンセットは、吸引力により直管先端に試料を付着させて操作するツールです。ループ針は地球外物質研究グループが開発したツールで、ステンレス製針の先端をループ状に加工したものです。従来の地球外物質試料ハンドリングツールとしては直線針が知られていますが、先端形状を変形することにより試料の付着効率を高めています。

試料保管用シャーレ

イトカワ試料はマス目を刻印したスライドガラス上に複数の試料を並べて保管しています。JASRI/Spring-8との共同開発により、従来方法のメリットやデメリットを議論し、リュウグウ試料保管用に新たな容器を開発しました。容器素材は分光測定の影響を受けないサファイアガラスで、シャーレ形状に加工しています。また個包装の方針を採用しており、個別粒子ごとにシャーレ収め、ふたを閉じる設計です。この構造により試料間の混在を防止することができます。

試料輸送容器

試料をクリーンチャンバから搬出する際は、雰囲気が密閉できる容器に封入します。Phase2キュレーション・高知チームでは、これらの容器を専用に開発し、FFTC(Facility to Facility Transfer Container、施設間輸送コンテナの略)と名付けています。主な特徴として、容器上面は石英ガラスの窓となっており、容器を開けることなく試料観察が可能になっています。容器を開封しないことにより、輸送容器の開封にかかる手間を省くだけでなく、大気中の浮遊塵による試料汚染や、試料消失の懸念を払しょくしています。このように、試料輸送だけでなく、その後の作業を総合的に考慮した工夫した容器となっています。

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