地球外物質研究グループ|宇宙科学研究所

キュレーション

はやぶさ|小惑星イトカワ

Hayabus and Itokawa

惑星物質試料受入れ設備(地球外試料キュレーションセンター)では、探査機「はやぶさ」が持ち帰った、小惑星イトカワを由来とする粒子を管理しています。

帰還試料の受入れ

地球外試料キュレーションセンターは、「はやぶさ」による帰還試料を受入れるため、2007年に設立された施設です。「はやぶさ」帰還の一年前からは、受入れのためも綿密なリハーサルを行いました。そして2010年6月、「はやぶさ」が地球に届けた再突入カプセルを受取りました。
地球外試料キュレーションセンターのクリーンルームにおいて、再突入カプセルからサンプルコンテナを取り出しました。サンプルコンテナとは、サンプルキャッチャ(採取試料容器)を格納した真空密閉コンテナです。サンプルコンテナの表面を徹底的に清掃した後、開封装置にセットして、クリーンチャンバ第1室に導入しました。その後、クリーンチャンバ第1室の真空雰囲気下でコンテナを開封し、サンプルキャッチャを無事に取り出しました。開封時に放出された雰囲気(ガス)を回収し、貴ガスの同位体分析を実施しましたが、結果は残念ながら、イトカワ由来の成分は検知できませんでした。

試料の回収

窒素雰囲気化でサンプルキャッチャの蓋を開け、キャッチャ内を光学顕微鏡で観察したところ、肉眼で確認可能な大きさの粒子は見当たりませんでした。その後、サンプルキャッチャを第2室に移し、キャッチャ室内をテフロン製のヘラで掻いた結果、微粒子が付着していました。それらの粒子を電子顕微鏡観察とエネルギー分散型X線分析(EDS分析)したところ、およそ半分はキャッチャ内面から剥がれ落ちたアルミニウム破片でした。残りはかんらん石、輝石、斜長石などの鉱物粒子であることが確認され、イトカワを由来とした物質であることが分かりました。

テフロンヘラの電子顕微鏡観察

初期分析と協力機関

キャッチャから回収した試料の一部を、地球外物質研究グループと協力関係にある大学や研究機関に提供しています。そこでは、初期分析と呼ばれる様々な分析が実施され、イトカワの母天体の存在や、イトカワ形成の歴史と表面物質の進化に関する知見が得られています。また、JAXAはNASAと覚書を取交しており、NASAのキュレーショングループに試料の一部を提供しています。

現在

サンプルキャッチャは、帰還直後に開封したA室の他に、B室を持ちます。さらに回転筒と呼ばれる機構部もあり、それらの部位にもイトカワ由来と思われる微粒子が付着していました。地球外試料キュレーションセンターでは現在も、それらの回収作業を継続しています。

初期記載と命名

サンプルキャッチャの各部位から回収した試料を一粒ごとに、電子顕微鏡観察、EDS分析して試料を簡易に同定しています。この作業を初期記載と呼びます。初期記載後、試料をクリーンチャンバ内に戻し、イトカワ由来と同定できた試料を、スライドガラス上に整理して保管します。保管した試料にはIDを付与し、IDと初期記載情報、保管場所を併せてデータベースに登録して管理します。

試料カタログと国内外への試料配布

データベースに登録した試料を、年次にカタログとして整理し、デジタル出版して公開しています。また、最新の試料一覧情報をインターネットで常時公開しており、国際公募研究の枠組みで利用を希望していただくことができます。

「はやぶさ」試料キュレーションに関する技術やツール

  • 「はやぶさ」による帰還試料を受入れるために準備された装置です。主には真空チャンバと窒素雰囲気のグローブボックスから構成されています。

  • サンプルキャッチャから回収される微試料は、最大でも300マイクロメートル程度。ほとんどは50マイクロメートル程度の微粒子です。それらの試料の取扱いのため、地球外試料キュレーションセンターでは、静電制御マニピュレータを開発しました。マニピュレータ先端は、プラチナの心線を持った石英針で、その心線に電圧をかけることで、石英針表面に静電気が発生し、試料を付着させて持ち運ぶことができます。

  • 当初、サンプルキャッチャから試料を回収する方法として、専用に開発したテフロンヘラで掃き出しました。その後、キャッチャ室内の試料を可能な限り回収するために、石英板や表面研磨したステンレス板の上でキャッチャを逆さまにして落下させて回収しています。この方法は自由落下や叩き出しと呼んでいます。

  • 試料を保管するスライドガラスは石英製です。ガラス表面にマス目と住所番号を刻印しており、各マスの中央には試料を収めるための窪みを掘っています。スライドガラスは、有機溶剤や超純水での超音波洗浄、強アルカリや強酸での煮沸洗浄により徹底的に清浄度を高めたもので、目視観察により15マイクロメートル以上のものが付着していないことを確認したうえで、試料の保管に利用しています。

  • 試料をクリーンチャンバから搬出する際は、雰囲気が密閉できる容器に封入します。地球外試料キュレーションセンターでは、これらの容器を専用に開発しています。これは、地球大気や浮遊塵による汚染をさけるための工夫です。

  • 初期記載のためにクリーンチャンバから電子顕微鏡に持ち運ぶ際に利用する容器です。電子顕微鏡側の試料交換室も改良しており、高純度窒素を導入して容器を開封する機構を持ちます。

  • 国際公募研究のために、国内外に試料を輸送する際にも、密閉型の試料容器を利用しており、高品質の試料を研究者に提供するよう努めています。

  • 試料の一粒ごとに、RA-QD02-0056やRC-MD01-0001のようなIDを命名しています。RAはサンプルキャッチャのA室、RBはB室、RCは回転筒から回収したことを示します。QD02やMD01はそれぞれ、サンプルキャッチャからの回収(叩き出し)先である石英板の2枚目、ステンレス板の1枚目を示します。RA-QD02-0056とは、A室の粒子を回収した石英板の56番目の粒子。RC-MD01-0001とは、回転筒から回収したステンレス板の1番目の粒子という意味です。

  • 初期記載の結果から、試料を4つのカテゴリに分類しています。カテゴリ1は主に、かんらん石、輝石、斜長石などのケイ酸塩鉱物のみから成るものです。カテゴリ2は、ケイ酸塩鉱物に加え、硫化鉄、鉄・ニッケル金属、クロム鉄鉱などの不透明鉱物を含むもの。初期分析や国際公募研究の結果から、これらはイトカワを由来であることが明らかになっています。カテゴリ3は主に炭素から成るもので、現在のところ起源は不明です。カテゴリ4は、アルミニウムやステンレスの破片など、明らかな人工物です。これらのカテゴリには分類できないような、起源不明の試料も存在します。

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