地球外物質研究グループ|宇宙科学研究所

キュレーション

OSIRIS-REx|小惑星Bennu

OSIRIS-REx Curation

OSIRIS-RExミッションは、NASAによる初めてのリターンサンプルプロジェクトとして実施されました。2020年10月20日、探査機OSIRIS-RExは小惑星Bennuのナイチンゲール地点で地質試料の採取に成功、2023年9月24日には試料を地球に帰還させています。JAXAとNASA間での覚書(MOU)により、NASAが獲得したBennu試料のうち、総重量から0.5%をJAXAは受け取ります。地球への帰還から1年以内に配分される予定です。
JAXAは「はやぶさ2」の拡張ミッションとして、Bennu試料を受け入れるためキュレーション設備の整備を進めています。JAXAキュレーションにおける目標は、「はやぶさ2」の経験を活かして、短期・低コストで実施をして、Bennu試料キュレーションでの意欲的に新たな知見を得て、将来プロジェクトにつなげていきます。現在は、クリーンルームとクリーンチャンバを整備中です。

クリーンルーム

惑星物質の試料受け入れ設備は、「はやぶさ」受入れに合わせて整備された施設です。当初は「はやぶさ2」のためのクリーンルーム拡張の設計まで考慮されていましたが、今回の「OSIRIS-REx」のための整備までは考慮されていませんでした。一般居室として利用していたクリーンルーム運用室を大改修してクリーンルーム化しました。「はやぶさ」や「はやぶさ2」受入れクリーンルームと同等の建材を使用し、清浄度も同等のISOクラス6としています。改善として、パーティクルカウンタの導入や窒素ガス系統、排気ダクトの整理を行い、レイアウトを洗練させています。

新設したクリーンルーム

クリーンチャンバ

「はやぶさ2」リュウグウ試料用チャンバの要求仕様を基準としています。ただし、試料はNASAより窒素ガスに封入されて配分されるため、リュウグウ試料のコンテナ開封や保管に用いた真空クリーンチャンバは不要となります。したがって、Bennu試料用のチャンバは、窒素雰囲気クリーンチャンバのみの構成となっています。窒素雰囲気クリーンチャンバはグローブ操作による試料取扱いを想定した装置です。
また、クリーンチャンバの他に窒素雰囲気の大気圧型グローブボックスも新設します。クリーンチャンバが最高レベルの清浄度を提供する代わりに試料操作が制限されることに対し、グローブボックスはある程度の清浄度を維持しつつ、試料の汚染を最小限に抑えて柔軟な分析を実施することを可能にします。

製作中のクリーンチャンバ

初期記載

Bennu試料も、イトカワ試料やリュウグウ試料と同様、キュレーションセンターにおいて個別容器に分取され、それぞれの試料に対して初期記載を行い、カタログを作成します。記載項目はリュウグウ試料と同様で、天秤、光学顕微鏡、赤外顕微鏡+フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)、そしてMicrOmega(赤外線分光イメージャ)を用います。これらの装置を使用することで、試料を汚すことなく非破壊的に計測・分析が可能です。天秤による試料の重さを測定、光学顕微鏡では試料の外観や色合い、大きさを確認します。FTIRとMicrOmegaは、赤外線の反射スペクトルを分析することで、目視では確認できない含水量や有機物の特徴を記録することができます。「はやぶさ2」の科学データと比較できるように、またそれを進化させるための工夫が施されています。例えば、FTIRには顕微システムが導入され、リュウグウ試料キュレーションでは困難だった100μm以下の試料も分析できるようになりました。さらに、MicrOmegaの試料台が改良され、試料の傾斜を調整しての分析が可能となりました。

光学顕微鏡による撮影テスト

サイエンスチームとの協力

JAXAが受入れるBennu試料は、リュウグウ試料との比較研究や火星衛星探査計画(MMX)で予定される試料記載のデモンストレーション実施を検討しています。これらの活動には「はやぶさ2」プロジェクト初期分析チーム経験者やMMX試料初期記載メンバーの参加を想定しています。
また、地球外物質研究グループでは拡張キュレーション活動を推し進めており、今後、新規導入したX線CTスキャナをはじめとして複数の分析を組み合わせ、試料の物性データもしくは化学データを統合的に求めて解釈していきます。いくつかのBennu試料についても拡張キュレーション活動にて、より多角的な分析をします。

今後の予定

2024年上半期から初期記載を継続し、得られた情報はデータベースに登録しインターネットで公開する予定です。下半期には国際的な研究公募による配布対象試料として一般の研究者から研究公募を開始する予定です。同時にリュウグウ試料も配布対象とするなど、相互比較研究が可能な枠組みを検討しています。リターンサンプルによる惑星科学を発展させるため、国内外を問わず広く研究者コミュニティからの応募があることを期待しています。

技術やツール

ハンドリングツール

Bennu試料のハンドリングツールはリュウグウ試料キュレーションのために整備したツールを主としています。取扱い対象や取扱い方法も、リュウグウ試料キュレーションでの方法を参考にして進める予定です。

環境評価/汚染コントロール

OSIRIS-REx試料キュレーションの技術目標の一つは、環境評価手法の充実化です。帰還試料のキュレーションでは、清浄な環境下で試料を管理し、汚染のリスクを最小化することが極めて重要となります。一方、イトカワ試料およびリュウグウ試料のキュレーションでは、高水準の環境が整備されていたものの、定量的な評価やルールとしての明確な基準には改善の余地が存在していました。
Bennu試料の受け入れにあたり、従来のクリーンチャンバのAPI-MS分析を継続する一方で、これまで行っていなかったグローブボックスの評価も加える予定です。さらに、最近導入されたGC-MSやICP-MSを用いて、有機・無機成分のインハウス分析を定期的に行う計画です。これらの評価手法は現在、整備の進行中です。今後蓄積されるデータを基に、将来的にMMX試料キュレーションの際に、清浄度に関するキュレーションの基準値を明確に設定・提示できることを期待しています。

ICP-MS整備の様子
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