地球外物質研究グループ|宇宙科学研究所

研究活動

はやぶさ

イトカワ

Hayabusa and Itokawa

「はやぶさ」ミッション

小惑星は、太陽系が誕生したころの情報をそのまま保存している始原的な天体と考えられています。小惑星から試料を採取し、地球に持ち帰って詳しく調べれば、太陽系の誕生や進化を探る貴重な手がかりが得られます。 太陽系の天体から試料を持ち帰ることを、サンプルリターンと呼びます。「はやぶさ」は、将来の本格的なサンプルリターン・ミッションを達成するために必要な技術を開発し、それが実際に使えることを実証するための探査機です。

主な目的

  • 電気推進技術イオンエンジン:新しい低燃費な推進機関を使って惑星間を飛行する
  • 自律誘導航法技術:カメラやレーザー高度計など光学的な情報をもとに自分がどこにいるかを知り、自動的に目標に近づいたり、姿勢を変えたりする自律航行を行う
  • 小惑星のサンプル採取:重力が微小な天体に着陸し、サンプルを採取する
  • 地球スイングバイ:イオンエンジンを使った飛行に、地球の重力を利用した加速方法を併用する
  • 再突入カプセル:試料収納したカプセルを惑星間軌道から地球に持ち帰る
  • 「はやぶさ」搭載科学観測機器

    • AMICA (Asteroid Multiband Imaging CAmera)

      7バンドの色フィルタと偏光子が搭載され、小惑星のカラー情報を取得します。小惑星表層のわずかな色の違いを判別することで、イトカワ表面の鉱物組成分布と、形状を調べます。

    • LIDAR (LIght Detection And Ranging)

      レーザーパルスを発射して探査機と小惑星の距離を測定します。イトカワに接近・着陸する「はやぶさ」にとって、LIDARは大変重要な航法センサーであるとともに、イトカワの自転を利用した表面形状測定、重力測定なども行います。

    • NIRS (Near InfraRed Spectrometer)

      太陽光がイトカワの表面で反射した光を分光する装置です。分光とは、光を波長ごとに分解して、波長ごとの光の強さ(小惑星表面の色)を調べることです。小惑星表面の波長を調べることで、イトカワ表面の鉱物の種類や表面の状態を理解することができます。

    • XRS (X-Ray Spectrometer)

      小惑星表面の主要元素(岩石の種類に重要なマグネシウム、アルミニウム、ケイ素、硫黄、カルシウム、チタン、鉄など)の組成を調べる装置です。太陽X線が小惑星表面に照射されると、光電吸収と呼ばれる現象によって表層岩石中の原子がエネルギーを吸収し、その一部をX線(蛍光X線)として放射します。蛍光X線は元素に固有のエネルギーを持ちます。小惑星は蛍光X線でかすかに光っており、そのエネルギーの違いを計測することで、元素組成を決定できます。

    「はやぶさ」活動略歴

    2003年5月9日 M-Vロケットにて打上げ
    2004年5月 地球スイングバイを行って加速
    2005年9月12日 20億kmの行程を経て、イトカワに到着以降 高度3〜20 kmからイトカワの形状、地形、表面高度分布、反射率、鉱物組成、重力、主要元素組成などを観測
    2005年11月20日 1回目のタッチダウン、表面試料採取
    2005年11月25日 2回目のタッチダウン、表面試料採取
    以降、イトカワ離脱
    2007年4月 地球帰還に向けて軌道変更を開始
    2010年6月13日 再突入カプセル分離
    再突入カプセルは地球大気圏に再突入し、オーストラリアのウーメラで回収された

    サンプルキャッチャによる試料回収

    「はやぶさ」のサンプルキャッチャはA室、B室と回転筒という3つの区画に分かれており、回転筒の可動部が回転することにより、採取試料をA室とB室に振り分けることができます。「はやぶさ」は「ミューゼスの海」の異なる2地点にタッチダウンしており、1回目のタッチダウン時に採取された試料はB室に、2回目に採取したものはA室に収納されました。

    帰還試料による科学成果

    キュレーションセンターでの回収後、試料の一部を初期分析に提供し、詳細科学分析が行われました。この成果は、米科学誌「サイエンス」から特集号として発表されています。

    Science Magazine 26 August 2011:https://science.sciencemag.org/content/333/6046/1081.abstract

    中村智樹(東北大)他

    S型小惑星と普通コンドライト隕石を直接結び付ける証拠詳細な鉱物学的研究の結果、小惑星イトカワはLL4〜LL6コンドライト隕石に類似した物質でできていることが判明。同時にイトカワの起源と形成過程に関する重要な知見が得られました。イトカワの母天体の大きさは現在の10倍以上と考えられ、中心部分の温度は約800℃まで上昇、その後ゆっくりと冷えたと考えられます。その後、大きな衝突現象が起き、再集積したものが現在のイトカワになったと考えられます。

    圦本尚義(北海道大)他

    酸素同位体組成分析により、分析した微粒子サンプルは地球とは異なる同位体比を持つことが分かり、地球外物質であることが明らかになりました。この分析により、S型小惑星イトカワが、地球に落下する隕石の一種である平衡普通コンドライトのLLまたはLグループの供給源の1つである証拠が得られました。

    海老原充(首都大東京)他

    中性子放射化分析の結果、重要な元素の含有量が求められ、太陽系最初期に起きた元素の分別過程を保存していることが判明しました。

    土`山明(大阪大)他

    X線マイクロCTにより分析した微粒子サンプルの3次元外形は、小さな重力しか持たない小惑星のレゴリスの特徴を有しており、レゴリス粒子の起源や進化が読み取られること、また、内部構造と構成鉱物の比率から、LL5あるいはLL6コンドライトに類似した物質であることが分かりました。

    野口高明(茨城大)他

    微粒子サンプルのごく表面付近を特別な電子顕微鏡で観察した結果、宇宙風化によって作られた特有の元素を含む鉄に富む極微粒子の存在が確認されました。これは宇宙風化の直接的証拠であり、LLコンドライトが宇宙風化を受けると、S型スペクトルを持つようになる事が明らかにされました。

    長尾敬介(東京大)他

    微粒子に含まれる太陽風起源貴ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴン)の分析結果により、これら微粒子サンプルがイトカワ表層起源であることを証明しました。微粒子が最表面に露出して太陽風に曝された期間は数百年から数千年です。一方、高エネルギー銀河宇宙線照射の影響は検出限界以下であることから、イトカワ表層物質が百万年に数十センチメートル以上の割合で宇宙空間に失われつつあることが分かりました。

    惑星物質試料受入れ設備(地球外試料キュレーションセンター)では、探査機「はやぶさ」が持ち帰った、小惑星イトカワを由来とする粒子を管理しています。

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