研究活動
OSIRIS-REx
と
Bennu
OSIRIS-REx and
Bennu
OSIRIS-RExミッション
OSIRIS-REx(日本語ではオサイリスレックスもしくはオシリスレックスと呼ばれています)は、NASAが推進する宇宙探査プロジェクトであり、NASA主体による初めての小惑星リターンサンプルミッションです。この名前は、Origins(起源)、Spectral Interpretation(分光スペクトル解析)、Resource Identification(資源の特定)、Security(セキュリティ)、Regolith Explorer(地表探査機)の頭文字から構成されています。その目的は、小惑星Bennuを探査、試料を採取し、地球に持ち帰ることです。
OSIRIS-RExミッションは、科学的な知識を深めるだけでなく、将来の宇宙開発にとって重要な意義を持っています。このミッションによって採取される試料は、生命の起源や太陽系の形成についての手がかりを提供すると期待されています。Bennuから取り出される有機物や鉱物は、地球上で生命が誕生するための材料となった可能性があります。また、Bennuのような小惑星には水や貴金属などの天然資源が含まれているとされ、これらは将来的に宇宙探査や資源開発のために利用される可能性があります。さらに、地球に近づく小惑星への接近と試料採取は、万が一小惑星が地球に衝突する可能性が出た場合の対策研究にも役立つと考えられています。
探査機OSIRIS-RExは2016年に打ち上げられ、2018年に目標である小惑星Bennuに到着しました。2020年には表面から石や砂を採取することに成功、2023年9月24日には試料カプセルを地球に届け、リターンサンプルミッションは完了しました。その後、探査機はOSIRIS-APEXに改名し、新たなミッションである小惑星アポフィス観測に向けて出発しています。
探査機
探査機OSIRIS-RExは、先進的な科学装置を装備しています。
主要な搭載機器:
- OCAMS(OSIRIS-RExカメラスイート): Bennuの形状、表面の特性、および回転の詳細を記録するためのカメラ群
- OTES(OSIRIS-REx熱放射計): Bennu表面温度と放射熱特性を測定するための分光計
- OVIRS(OSIRIS-REx可視・赤外分光計): Bennu表層物質の分析をする分光計
- OLA(OSIRIS-REx レーザー高度計): Bennu表面の高低差をマッピングし、天体体積を見積もるための高度計
- REXIS(X線分光イメージャ): Bennu表層物質の元素組成を蛍光X線分析する分光計
試料回収
探査機OSIRIS-RExは、TAGSAM(Touch-And-Go Sample Acquisition Mechanism)により試料を回収します。
約3mのアームの先に取り付けられた円形の容器(TAGSAM)が、Bennuの表面に接触する際に、窒素ガスを噴射し、小惑星の表面から砂や岩の粒子を吹き飛ばして採取、最大で2キログラムの試料が回収できる設計です。
2020年10月20日、OSIRIS-RExはBennuのナイチンゲール地点におよそ6秒間のタッチダウン、数秒のうちに窒素ガス噴射、表面物質収集に成功しています。
小惑星Bennu
Bennu(日本語ではベンヌもしくはベヌーと呼ばれています)は、反射スペクトルの特徴からB型に分類される小惑星です。直径約500メートルと小さいながらも、その表面には太陽系が形成された約46億年前の物質が保存されていると考えられています。
B型小惑星であるBennuは、C型小惑星と似た小惑星と考えられていますが、分光観測ではRyuguに比べ、含水鉱物など水に関連する吸収が強いことがわかっています。炭酸塩や磁鉄鉱、有機物と考えられる赤外線の吸収の特徴も観測されました。これらはいずれもRyugu試料に存在し、Bennuの石もRyugu同様に水質変成を受けていると考えられます。これらの岩石や有機物は、太陽系初期の化学的、物理的な情報を持っていると予想されています。また、Bennuに含まれる有機物や水は、生命の起源や地球上の海洋の成因を探る上でも重要な鍵となります。
Bennuの形状はRyugu同様にそろばん玉状で、密度は1.19g/cm3でRyuguと同じです。表面は、岩塊で覆われ、Ryuguと同じく、ラブルパイル天体(がれきのように岩が集まった天体)と考えられています。表面の岩塊の明るさはRyuguよりも多様であることが観測でわかりました。
特筆すべきは、Bennuが「活動的」な小惑星であるということです。時折、cmサイズの小石やダストの噴出が観測され、これは太陽光による表面の加熱や冷却による可能性などが考えられています。このような活動はRyuguでは観測されませんでした。
Bennuは地球近傍小惑星とも呼ばれています。太陽からの平均軌道距離は約1億6,800万km、太陽と地球の平均軌道距離1億6,800万kmよりわずかに遠く、およそ6年ごとに地球に接近します。地球に非常に近づき、衝突する可能性も予測されており、詳しい観測と研究の対象となっています。地上に持ち帰られた試料を調べることは、将来の危険を未然に防ぐことにも貢献すると考えられます。
NASAによるキュレーション
OSIRIS-RExがBennu試料を収めた再突入カプセルはパラシュートで降下します。2023年9月24日、カプセルはアメリカのユタ州に着陸し無事に回収されました。
- サンプルカプセルの回収:カプセル着陸後、NASAの回収チームは20分以内に現地に到着しました。周囲とカプセルの安全性を確認した後、梱包し、ヘリコプターで現地のクリーンルームに輸送しました。クリーンルーム内ではカプセルを分解して、試料容器(サンプルキャニスター)を取り出しました。
- サンプルキャニスターの輸送:カプセルから取り出されたサンプルキャニスターは速やかに窒素ガス雰囲気下に置かれ、酸素や湿気による汚染や劣化を防ぐ処置が施されました。サンプルキャニスターは米空軍の輸送機によりヒューストンに空輸され、9月25日にNASAジョンソン宇宙センターのアストロマテリアル・キュレーション施設に運び込まれました。
- 初期キュレーション:キュレーション施設において、サンプルキャニスターは専用の窒素雰囲気のグローブボックス内に収められました。9月26日、蓋の開封後、アビオニクスデッキと呼ばれる部位に黒い粉体や砂サイズの粒子が発見されました。引き続いてサンプルの主容器であるTAGSAMの分解が進められ、TAGSAMヘッドと呼ばれる部位からは汚染評価のためのプレートが回収され、TAGSAMベースプレートからはコンタクトパッドが回収されました。コンタクトパッドはBennu表層の微粒子を接触採取するためのものです。
- 簡易調査(クイックルック):TAGSAMの分解作業と並行して、2023年9月27日から28日にかけて、アビオニクスデッキで発見されたサンプルは OSIRIS-REx チームに提供され、走査型電子顕微鏡 (SEM)、赤外線測定、X線回折 (XRD) により分析されました。SEMは化学分析と形態学的分析、赤外線測定はサンプル中の水和鉱物や有機物の有無、XRDは鉱物種や割合についての情報を提供します。
ここまでに得られた知見から、10月11日のプレスリリースでは以下のことが公表されています。
- Bennuサンプルは地球に届けられた小惑星試料のなかで最高の炭素含有率を誇る
- Bennuサンプルから炭素と水の証拠が発見された
その後も、NASAキュレーションではTAGSAMの分解と試料回収作業を継続しています。TAGSAMヘッドの固定具が外せず、内部にアクセスができない困難もありましたが、新規製作のツールにより取り外して試料回収に成功しました。回収したBennuサンプルの総重量は121.6gと公表されています。これは探査機データから予測された250±101gより少ない量でしたが、OSIRIS-RExのミッション目標である60gを大幅に上回るものでした。
NASAキュレーションではサンプルの長期保全に努めるとともに、初期分析チームへの分析サンプル提供、博物館・大学への一般展示用のサンプル配分も行います。2024年3月25日には、キュレーションカタログも公開しました。カタログにはサンプル記載情報のみならず、コンタクトパッドや汚染検証プレート、ハードウェアの写真も含んでおり、インターネットを通じて一般に公開されています。このカタログは、世界の研究グループへの情報ソースとしての役割も担っており、NASAキュレーションでは世界の研究グループから研究提案とサンプルリクエストを受け付け、審査委員会により採択された研究に対して試料配分を行います。
OSIRIS-REx サンプル分析
試料帰還から2年間、OSIRIS-RExサンプル分析チームによる分析が実施されます。その成果の一部はすでに、2023年の10月11日のプレスリリースで語られたとおりです。初期分析では、岩石学、鉱物学、有機成分、元素および同位体組成、熱的および物理的特性といった多角的かつ基礎的なサンプル情報を取得します。得られた知見は、研究論文やキュレーションカタログを通じて公開される予定です。
JAXAによるキュレーション
OSIRIS-RExミッションにより採取されるBennuサンプルは、JAXAとNASA間での覚書(MOU)により、総重量の0.5%を受け取ることが決まっています。これは、ミッションの成果を共有し、両国間の科学技術協力を推進するためのものです。
これにより、JAXAのキュレーションセンターでは、はやぶさ2のリュウグウサンプルとOSIRIS-RExのBennuサンプルを比較することが可能になります。両小惑星のサンプルを比較研究することで、小惑星の成り立ちや太陽系の進化についてより深く理解することができると期待されています。
参考リンク
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