地球外物質研究グループ|宇宙科学研究所

【研究成果】 JAXA地球外物質研究グループにおける、はやぶさ2帰還試料の非汚染キュレーション ー開発開始から現在までー

 はやぶさ2では、はやぶさ初号機とは異なり、炭素質物質に富む小惑星から試料帰還することから、地球の窒素にも晒されないように試料の一部は真空のまま取り分けて保管することが出来るような機構を準備しました(図1)。 真空から窒素環境に移行した後に試料をサンプルキャッチャから取り出す作業に使う治具、取り出した試料をハンドリングするための器具、試料を収める容器類についても、試料の破壊・漏洩のリスクを極力抑えるよう配慮しました(図2)。 また汚染管理については、試料帰還前後に渡ってクリーンルーム、クリーンチャンンバ両方の環境を半年に1回の頻度でモニターしており、NASAジョンソン宇宙センターのキュレーションで用いられるグローブボックスより低汚染の環境を実現しています(図3)。 試料の磁気汚染に対する配慮として、試料に直接触れる部品の消磁も行いました。更に、試料のカタログ作りのための初期記載についても、帰還試料の非汚染・非破壊を原則に、光学顕微鏡撮影・秤量・赤外分光分析(2機器)・可視分光分析の5項目を行う為の器具・付属チャンバの準備を行い、帰還後の初期記載を進めました。

図1. はやぶさ2帰還試料用クリーンチャンバの概念図。CC3-1、CC3-2にて真空中で試料コンテナを開封して、試料の一部を取り出す作業を行い、CC3-3に移してから窒素環境に移行し、試料の回収・ハンドリング・カタログ作りのための初期記載を行った。  図2. mmサイズの試料をハンドリングするための真空ピンセットの写真。先端のアルミニウム製のキャップを外すと、ステンレス製のチューブが付いており、背圧を引くことで粒子を掴むことなく吸着させ、移動する事が出来る。  図3. はやぶさ2用クリーンルーム及びクリーンチャンバの有機物のモニター値。有機化合物以外にも陰イオンや陽イオン、金属元素のモニター値を測定している。

<論文著者からひとこと>
はやぶさ初号機の経験を踏まえて、はやぶさ2帰還試料で実現した非破壊・非汚染での帰還試料キュレーション(受入・カタログ化・保管・配布)の技術は当グループの貴重な財産であり、この技術・経験に更に磨きをかけて、NASA探査機OSIRIS-REx、MMXミッションなどの将来サンプルリターンミッションの試料キュレーションを進めていく所存です。

地球外物質研究グループ
矢田 達 主任研究開発員

発表論文

掲載誌: Earth, Planets and Space
タイトル: A curation for uncontaminated Hayabusa2-returned samples in the extraterrestrial curation center of JAXA: from the beginning to present day
著者: Yada, T. et al.
DOI: 10.1186/s40623-023-01924-2
URL: https://earth-planets-space.springeropen.com/articles/10.1186/s40623-023-01924-2
論文公開日: 2023年11月15日

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