小惑星探査機「はやぶさ2」試料受入準備にかかる連携協定の締結について

協定を結ぶ理由

  1. 「はやぶさ2」の試料の特徴と「はやぶさ」初号機との違い

     小惑星探査機はやぶさの初号機は、「S型の小惑星」イトカワから0.1mm程度以下の、微小な粒子の回収に成功しました。この持ち帰った試料の分析の結果、地球上にふってくる隕石のうち、普通コンドライトと呼ばれる隕石と、良い一致を示すことが証明されました。この普通コンドライトは、かんらん石、輝石(きせき)など、地球のマグマなどから形成される火成岩におおく含まれるような鉱物を主成分としています。

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    普通コンドライト隕石(キラボ、LL6)(左)と、炭素質コンドライト隕石(マーチソン、CM2)(右)
    炭素質コンドライトは普通コンドライトに比べて真っ黒です。


     一方で、「はやぶさ2」が目標としている「C型の小惑星」リュウグウは、そのスペクトル形状(色)から、地球上にふってくる隕石のうち、炭素質コンドライトと呼ばれる隕石によく似ていると考えられています。この炭素質コンドライトは有機物や水など、普通コンドライトにはあまり入っていない物質を多く含むことが知られています。岩石鉱物も、蛇紋石(じゃもんせき)や磁鉄鉱(じてっこう、マグネタイト)など、火成岩が水によって変質した岩石に含まれる鉱物や、炭酸塩(たんさんえん)鉱物など、普通コンドライトにはあまり入っていない、地球の海底の堆積岩などに見られるような鉱物が多く見られます。

     このように、「はやぶさ2」が持って帰る試料には、多くの水、有機物が含まれることが予想されます。しかし、これらは水と生命の惑星である地球の表面にはふんだんに存在するため、地球上に帰った後の試料は、慎重に取り扱わないと簡単に汚染を受けてしまいます。


  2. 「はやぶさ2」の試料受け入れの準備

     「はやぶさ」初号機が持ち帰った試料は、JAXA宇宙科学研究所の地球外試料キュレーションセンターにある、クリーンチャンバーに保管されています。このクリーンチャンバーは、「はやぶさ」初号機が小惑星イトカワにタッチダウンを行う一年前の2005年から地球に帰還する2010年までの5年間をフルに使って作成されました。試料を分析する、電子顕微鏡などの装置、試料を取り扱うためのマイクロマニピュレータなども、この期間に準備・開発が行われています。

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    「はやぶさ」の試料が保存されているクリーンチャンバー(左)と、試料を取り扱うためのマイクロマニピュレータ(右)


     「はやぶさ2」では、壊れやすく、蒸発しやすい、有機物や水などの物質を取り扱う必要があるため、試料を取り扱う技術ははやぶさ初号機よりもはるかに難しくなります。たとえば、水をきちんと管理しようとすると、冷凍庫が必要になるかもしれません。また、含まれている岩石鉱物、試料のサイズも大きく異なります。このため、「はやぶさ」初号機で使用した技術、設備はそのままでは使用できません。はやぶさ2の試料の特徴に合わせて開発した新しい技術・設備が必要になります。

     しかし、「はやぶさ」初号機でさえ、設備・技術・人材などの環境を整えるのに5年もかかっています。「はやぶさ2」は2020年に地球に帰還予定です。「はやぶさ」初号機よりも遙かに取り扱いが難しい試料の作業を行うための準備を、「はやぶさ」初号機の時と同じ、たったの5年間で行わなくてはなりません。さらには、今のキュレーションセンターのスタッフは、同時に「はやぶさ」初号機が持ち帰った試料の分析なども実施しなければなりません。


    キュレーションスタッフのスケジュール
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  3. 協定・共同研究契約はなぜ必要か

     このように、「はやぶさ2」の試料を受け入れるためには、キュレーションセンターのスタッフの力だけでは無理が生じます。この世界で例の無い難しい作業を実施するために、日本のトップレベルの研究機関と協力し、「はやぶさ2」の試料から最大限の情報を引き出すために、今回の協力関係を結ぶことになりました。

     協力関係を結ぶ研究機関の中には、宇宙物質を専門で扱う機関だけでなく、分析技術において世界でトップレベルの技術をもつ機関が含まれています。これらの機関にキュレーションセンターの知識・技術の及ばない部分を補ってもらい、得意な分野で、試料の受け入れ準備にかかわる検討、研究開発を協力して実施します。

     「はやぶさ」初号機の時も、JAXA外部の研究者がキュレーションチームに加わって、受け入れ準備を協力して実施しました。世界で初めてのサンプルリターンミッションの試料受け入れ作業は、JAXA、キュレーションセンターのメンバーだけではとても不可能な作業でした。はやぶさ2でも、日本中の研究者との強力な連携が必須になります。

     今回の協力関係の締結は、「はやぶさ2」が持ち帰った試料を分析するためのものではありません。あくまで、その試料を受け入れるための準備に関しての協力関係です。従って、宇宙物質を扱うスペシャリスト以外の研究機関とも積極的に協力関係を結んでいます。例えば、分子科学研究所という研究機関とは、有機物、水や揮発性元素などを含む地球内外試料についての最適な分析・保管・配分方法、及び分析システムの構築に関しての協力をむすんでいます。
     小惑星試料という、難易度の高い試料を取り扱う技術を共同で研究、検討することにより、JAXAだけでなく各研究機関にも技術力向上のメリットがあり、それらは将来的に公開される技術となります。

     さらに、今回の協定によって、日本を代表する強力な研究機関がそれぞれお互いに連携を持つことで、日本の地球惑星科学分野における科学技術のさらなる向上を目指します。

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    個々の機関は、JAXAキュレーションセンターとだけではなく、お互いに連携を取り合い、さらに技術力を高める事が期待されます。