はやぶさが持ち帰った粒子

 小惑星探査機「はやぶさ」は2005年11月に近地球型小惑星イトカワの「ミューゼスの海」という地域の、異なる2地点でタッチダウンを行いました(図1)。

イトカワとタッチダウンポイント
図1.小惑星イトカワの3次元モデル(中村良介氏提供図に加筆)。探査機「はやぶさ」は「ミューゼスの海」上の2地点でタッチダウンを行った。

 「はやぶさ」のサンプルキャッチャーはA室、B室と回転筒という3つの区画に分かれており、回転筒の可動部が回転することにより、採集試料をA室とB室に振り分けることが出来ます(図2)。この機構により、1回目のタッチダウン時に採集された試料は、サンプルキャッチャーのB室に、2回目のタッチダウンで採集されたものはキャッチャーA室に収納されました。

 その後、「はやぶさ」は地球までの4年余りにわたる復路飛行を終え、2010年6月にサンプルキャッチャーを収めた再突入カプセルを無事、地球に帰還させることに成功しました。

 図3に示すとおり、帰還した再突入カプセルのサンプルコンテナ内に図2で示したサンプルキャッチャーは密閉されています。

サンプルキャッチャー稼働手順図
図2.「はやぶさ」サンプルキャッチャーの試料回収時の稼働手順(矢田他(2013)より引用)。打ち上げ時からキャッチャーB室側が開いており、1回目のタッチダウン時の回収試料をB室に収めたら1/3回転してA室側を開く。2回目のタッチダウンでA室に試料を収めたら、更に1/3回転してA、B 室を密閉する。
サンプルコンテナ断面図
図3.「はやぶさ」サンプルコンテナの断面図(矢田他(2013)より引用)。試料を収めたサンプルキャッチャーはコンテナ内にバイトン2重Oリングで密閉されている。

 再突入カプセルは現地で火工品などを取り外してから、日本に空輸され、JAXA相模原キャンパスの惑星物質試料受入設備に持ち込まれました。X線CTスキャンによる内部状況の確認を行った上で、惑星物質試料受入設備のクリーンルームで再突入カプセルからサンプルコンテナを取り出し、外壁の洗浄を行いました。次に、サンプルコンテナは窒素環境のクリーンチェンバー第1室に導入されました(図4)。クリーンチェンバーは「はやぶさ」帰還試料を真空および窒素雰囲気で取り扱う為に準備されたもので、コンテナの開封・コンテナ内のガス採集・キャッチャーの取り出しを行う第1室と、キャッチャーからの試料の回収・ハンドリングを行う第2室に分かれています。

クリーンチェンバー
図4.惑星物質試料受入設備のクリーンルームに設置されているクリーンチェンバーの写真(矢田他(2013)より引用)。向かって左側のチェンバーが第1室、右側のチェンバーが第2室。

 クリーンチェンバー第1室に導入されたコンテナは、その内圧を推定した後、高真空環境でフタを開けて、中から放出されたガスを回収しました。開封後、サンプルキャッチャーを取り出して、専用の容器に収納し、光学顕微鏡でサンプルキャッチャーA室の中身を確認しました。その結果、A室内に肉眼で確認可能な大きさ(0.5 mm)以上の粒子が見当たらないことが分かりました(図5)。

キャッチャーA室内
図5.開封した直後のキャッチャーA室内の様子。肉眼で確認できるサイズの試料が見当たらないことが分かる。

 その後、専用容器に収められたサンプルキャッチャーは、その内部の試料を回収する為にクリーンチェンバー第2室に移動しました。クリーンチェンバー第2室で、キャッチャーA室内をテフロンのへらで掻いた結果、微細な粒子が付着しているのが確認されました(図6)。この粒子を電子顕微鏡で観察・分析した結果、およそ半分がキャッチャー内面から剥がれ落ちたアルミニウムの破片、残りの半分がかんらん石、輝石、斜長石などの鉱物粒子であることが確認されました。

テフロンへら
図6.キャッチャーA室内を掻いたテフロンへらの光学顕微鏡写真(矢田他(2013)より引用)。矢印に示した場所に粒子が付着しているのが確認できる。

 しかし、テフロンのへらに付着した状態から粒子を回収するのが困難だった為、異なる方法で粒子を回収する必要がありました。この為、キャッチャーの各室に合成石英ガラス製の円盤を取り付けて、反転して振動を加えて粒子を石英ガラス円盤上に落として、そのガラス円盤を回収して光学顕微鏡で観察しました。その結果、ガラス円盤上に1000個以上の粒子があるのが確認できました(図7)。

合成石英ガラス製円盤
図7.キャッチャーA室に取り付けて粒子を回収した合成石英ガラス製円盤の光学顕微鏡写真(Yada et al. (2014)より引用)。円盤の直径は48mm。微細な粒子が分布していることが分かる。

 このガラス円盤から静電制御マニピュレーターで1個ずつ粒子を拾い出して、電子顕微鏡用の試料ホルダーに移動し、電子顕微鏡により観察・分析を行いました。これまでに石英ガラス製円盤による回収はA、B室で1回ずつ行いました。また、図3に示す通りB室のフタは単独で回収できるため、このフタの上から直接粒子を拾い出しました。また、専用のホルダーを開発して、直接電子顕微鏡でこのB室フタ上の粒子の観察・分析を進めました。2017年には新たな試みとして、A室・B室に振り分けられず回転筒内部に残存している粒子を金属製円盤に回収し、観察・分析を行っています。

 今までにA、B室に取り付けた石英ガラス製円盤各1枚及びB室フタから600個以上の粒子を拾い出して電子顕微鏡で分析し、また、3000個以上の粒子をB室フタ上において直接電子顕微鏡で観察・分析しました。その結果、粒子は主に4つのカテゴリーに分類されています。カテゴリー1(図8(a))は主にかんらん石、輝石、斜長石などのケイ酸塩鉱物のみから成っています。カテゴリー2(図8(b))はカテゴリー1のケイ酸塩鉱物に加え、硫化鉄、鉄・ニッケル金属、クロム鉄鉱などの不透明鉱物を含んでいます。今までの初期分析や国際公募分析の結果、これらは小惑星イトカワ起源であることが明らかになっています。カテゴリー3(図8(c))は主に炭素から成る粒子です。その起源については現在調査中です。カテゴリー4はアルミニウムやステンレスの破片などが起源の明らかな人工物粒子です。この他に、上記の4つのカテゴリーには分類されていない、起源が不明な粒子があります。

カテゴリー1粒子 カテゴリー2粒子 カテゴリー3粒子 カテゴリー4粒子
図8.「はやぶさ」サンプルキャッチャーから回収された粒子の電子顕微鏡写真。主にかんらん石、輝石、斜長石などから成るカテゴリー1(左上)、カテゴリー1と同様の鉱物に硫化鉄、鉄ニッケルメタルなどの不透明鉱物を含むカテゴリー2(右上)、主に炭素から成るカテゴリー3(左下)、アルミニウムやステンレスの破片など起源の分かった人工物であるカテゴリー4(右下)の4つの種類の粒子が見られる。

 回収・初期記載された粒子にはそれぞれ粒子IDが割り振られます。粒子IDで見られるアルファベットのRAとはA室、RBとはB室、RCとは回転筒で回収されたことを示します。QD02, QD04, CV, MD01などは、それぞれ石英ガラス製円盤の2番、4番、サンプルキャッチャーのフタ、金属製円盤の1番を意味します。例えば、RA-QD02-0056とは、A室の粒子を回収した石英ガラス円盤上の56番目の粒子、RB-CV-0042とはB室のフタの上から回収された42番目の粒子、RC-MD01-0001とは、回転筒の粒子を回収した金属製円盤上の1番目の粒子であることを意味します。
 キャッチャーから粒子の回収・初期記載作業は、2017年現在まだ継続中で、この先3年程度はかかる予定です(ただし、諸事情で変更の可能性があります)。